交通事故の解決実績

裁判 弁護士費用特約 追突 四輪車vs四輪車 むち打ち・捻挫等 主婦 後遺障害等級変更 14級 12級 医師面談

【頚椎捻挫】追突むち打ちのケースで、裁判により後遺障害等級12級13号を獲得した事例(賠償金900万円以上)

Nさん 福岡市・40代・女性・親の介護

【頚椎捻挫】追突むち打ちのケースで、裁判により後遺障害等級12級13号を獲得した事例(賠償金900万円以上)

解決事例のポイント

① 医学的意見書により神経根症を立証し、むち打ちとしては珍しい後遺障害等級12級13号獲得
② 保険会社の示談提示40万円弱⇒裁判で900万円以上に
③ 主婦ではないが、親の介護をしていたことを理由に休業損害・逸失利益認定
④ 画期的な判決であるとして判例誌掲載(自保ジャーナル2060号54頁)

相談前

Nさんは母と共に生活をする40代の女性です。

以前は仕事をしていましたが、お母様が病気となってしまったため、仕事を辞め、お母様の介護をしていました。

ある日Nさんは、お母様が検査入院されたため、車を運転して、着替えなどを届けに病院へ向かいました。

赤信号で停止して待っていたところ、前方不注視の車に追突され、むち打ちとなってしまいます。

Nさんは、保険会社の担当者の話し方にストレスが溜まり、また、弁護士費用特約に加入していたことから、弁護士に依頼して交渉を任せようと思うに至りました。

法律相談

Nさんに対して、むち打ちの場合の、通院方法の注意点や、今後の流れなどについて説明をしました。

むち打ちの場合の損害賠償請求の詳細については、こちらをご覧ください。

後遺障害等級の獲得

Nさんの交通事故は、修理費用40万円弱の追突事故で、大きな交通事故とは評価し難いものでしたが、無事後遺障害等級14級9号の認定を受けることができました。

Nさんには両腕の痺れの症状も出ていましたが、自賠責保険が後遺障害等級12級13号の認定をすることは滅多にないことと、Nさんが早期解決を希望していたこともあり、異議申立てはせずに示談交渉へと進むことにしました。

示談交渉の決裂

後遺障害等級14級9号の認定を元に示談交渉を開始しましたが、保険会社の担当者より、①Nさんは主婦ではないから休業損害や逸失利益は認めない、②慰謝料は裁判基準の80%、③元々ヘルニアがあったのだから素因減額30%を主張するなどと反論され、示談金40万円弱の提示がなされました。

あまりに不合理な主張であったのと、話が通じる担当者ではなかったため、Nさんを説得し、裁判させてもらうことにしました。

また、どうせ裁判をするのであれば、腕の痺れについても主張したいので、後遺障害等級12級13号の主張をさせてもらうことにしました。

民事裁判 福岡地方裁判所

後遺障害等級14級⇒12級

1 神経根症の医学的な裏付けを立証する

むち打ち症で後遺障害等級12級13号を獲得するためには、脊髄症か神経根症であることを医学的に裏付けないといけません。

Nさんの場合、症状からして脊髄症ではなかったため、神経根症の医学的な裏付けを行っていくことになります。

この点は、診断書・カルテなどの医学的証拠に、医学文献を元にした意味づけを行い、また、医師の意見書による補強を行って立証していきます。

被告からの指摘の中で超えなければいけないハードルとして、Nさんは片腕ではなく両腕に痺れが出ているというのがありました。

確かに、神経根症の場合は、右上肢か左上肢のいずれかに痺れの症状が出ますので、両腕に痺れが出るのはおかしいということになります。

しかしながら、Nさんの場合、頚椎の5番目と6番目の間の椎間板が左に出ていて、頚椎の6番目と7番目の間の椎間板が右に出ていましたので、この点のハードルはクリアすることができました。

また、被告からの指摘の中で超えなければいけないもう一つのハードルとして、Nさんには腱反射の異常がないという点がありました。

神経根症の場合、腱反射は低下もしく消失するとされていて、具体的には、お医者さんがハンマーで叩くと普通の人だと腕が動いてしまうところ、神経根症の患者さんの場合、動きづらかったり動かなかったりします。

Nさんにはこうした症状がなかったので、神経根症ではないのではないかと指摘されていました。

この点は、医学文献と病院の医師により、腱反射などの神経学的所見は個人差があるため、必ず低下や消失の所見が出るものではないことの立証を行い、重要なのは画像所見であると主張しました。

2 保険会社顧問医作成の意見書を徹底的に叩く

被告からは保険会社顧問医作成の意見書が提出され、徹底的に争われました。

しかし、保険会社顧問医の意見書というのは、医学的に質の低いものが多いです。

この裁判で出された意見書も、そもそも日本語として成立していないなど、酷い内容のものでした。

こちらとしては、保険会社側の提出意見書の質が低い方が有難いのですが、念のため、日本語として読み取れる部分について一つ一つ反論していくことにしました。

(1)保険会社提出の意見書で引用するデータは恣意的な切り取りがなされている

保険会社提出の意見書には、そもそも原告には椎間板の突出はないし、仮にあるとしても、平均的に、C5/6(5番目と6番目の頚椎の間の椎間板のこと)では約75%、C6/7(6番目と7番目の頚椎の間の椎間板のこと)では約85%の椎間板突出があるものなので、原告に特異なものではないとの指摘が記されていました。

しかしながら、上記データが記されている元文献を読むと、ここで記されているのは、平均1.2㎜~1.3㎜のわずかな突出であって、一般的には「椎間板ヘルニア」や「椎間板突出」と呼ばれるようなレベルの話ではなく、「椎間板変性」と呼ばれている話を、勝手に「突出」と置き換えて意見書が記されていることが判明したため、このことについて裁判で指摘を行いました。

(2)保険会社提出のデータを元に考察しても原告の椎間板突出の程度が大きいことが確認できる

また、日本人女性の第5頚椎における頚椎脊柱管前後径は15.8㎜とされていますので、保険会社提出の1.3㎜の突出をあてはめると、脊柱間の幅の1/11.5程度の突出が画像上確認できることになりますが、Nさんの画像から椎間板突出の割合を見ると約1/4となっていて、保険会社提出のデータと大きく異なることを指摘しました。

(3)原告の訴える症状と支配領域とが一致する

保険会社の意見書では、医学文献を根拠として、Nさんが訴える神経症状と画像所見とが整合しないとの指摘がなされていました。

しかしながら、保険会社の意見書が根拠とする医学文献を読んでみると、保険会社意見書が引用している箇所というのは「放散痛」についての記述であり、その前提が誤っていることが判明します。

同じ本の痺れの記載を読むと、Nさんが訴えている痺れの範囲と同書記載の皮膚感覚帯(dermatome)は概ね一致しており、その点を裁判でも指摘をしました。

3 裁判所の判決

以上の主張立証が奏功し、福岡地方裁判所もNさんのむち打ち症が後遺障害等級12級13号に該当するとの判決を出してくれました。

休業損害・逸失利益

保険会社は、Nさんが主婦ではないため、家事従事者性は認められないと主張していましたが、Nさんのお母さんの病状や、Nさんの家事・介護状況を尋問などで立証することで、Nさんの家事従事者性を認めさせることができました。

示談提示40万円が900万円以上の判決に

保険会社からの示談提示は40万円ほどでしたが、裁判により遅延損害金を含め900万円以上の賠償額まで上げることができました。

自賠責保険金75万円を加算すると、Nさんは1000万円程度を獲得できたことになります。

弁護士小杉晴洋のコメント:保険会社提出の意見書は不正確な記載が多いので注意

保険会社の顧問医というのは、保険会社と同じビルに診療所を構えて、診療所名も保険会社の名前を引用するなどして、保険会社に忖度しなければならない立場にあります。

被害者側としてやってはいけないのは、医者の意見書が出されたことを理由に、請求を諦めてしまうことです。

この裁判では保険会社の顧問医から2通の意見書が提出されましたが、いずれも適切に反論することで裁判所から排斥されています。

医学文献を元にもっともらしいことが書かれていますが、その医学文献の原典にあたると、「そんなことは書いてない」といったことが判明することがあります。

本件もまさにそのようなケースでしたが、保険会社の顧問医の意見書は、本当にその記載が合っているのかどうかを一々確かめた方が良いことが多いです。

保険会社から理不尽な主張をされている方については、被害者側専門の弁護士に相談されることをおすすめします。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。