時効
【時効】交通事故の慰謝料などの損害賠償は、何年で時効にかかるの?
2020.08.11
【時効】交通事故の慰謝料などの損害賠償は、何年で時効にかかるの?
時効とは何か
民法には、時効という制度があります(民法第1編第7章)。
時効制度には、取得時効と消滅時効がありますが、交通事故に関係するのは消滅時効です。
「権利の上に眠るものは保護に値せず」という法格言や、永続した事実状態の尊重という言葉があります。
たとえば、交通事故被害に遭ってしまったとしても、長い間慰謝料請求などをせず、何年か経ってからようやく請求したという場合を考えてみましょう。
加害者側からしたら、本来、被害者に対して慰謝料などを支払わなければならないわけですが、何年も請求がなかったのであれば、もう請求はこないと考えるのが自然ではないでしょうか。
他方で、被害者側としても、交通事故のせいで、何か月も入院し、仕事をクビになり、再就職先を探すなどしていたであるとか、後遺症を残してしまったがために、生活が困難となり、退院後に実家に帰省したなどの事情があって、すぐに慰謝料などの損害賠償請求をすることができないという事情も生じ得ます。
これらの調整原理として存在するのが消滅時効という制度で、いつまで経っても損害賠償請求ができるということにはなっていませんが、他方で、すぐに損害賠償請求をしなければならないということにもなっていません。
では、慰謝料などの損害賠償請求権は、具体的に何年で消滅時効にかかってしまうのでしょうか?
人損(身体のケガ関係)は5年・物損(車や自転車の損傷など)は3年で時効にかかります
交通事故被害に遭った場合の損害賠償請求というのは、民法では不法行為に基づく損害賠償請求権(民法第709条)に該当するものとされています。
この不法行為に基づく損害賠償請求権というのは、3年で時効にかかるとされています(民法第724条1号)。
ただし、交通事故によって身体にケガをした場合には、3年ではなく5年で時効にかかるとされています(民法第724条の2)。
では、乗っていた車やバイクや自転車も損傷したし(物損)、身体もケガをしてしまった(人損)という場合は、3年と5年のどちらの時効期間となるでしょうか?
答えは、物損の損害賠償請求は3年、人損の損害賠償請求は5年と分けて時効にかかることになります。
たとえば、交通事故から4年経った後に、加害者に対して、物損と人損の損害賠償請求をしたという場合は、慰謝料などの人損のみが認められ、物損は時効によって認められないということがあり得ます。
身に付けていた物が交通事故で破損してしまった場合は、人損扱いとして5年の時効期間になるものと、物損扱いとして3年の時効期間になるものに分かれる
人損扱いとなって時効期間5年にされる物品
日常生活において必要不可欠なものとして身体に密着させているものが交通事故により破損した場合については、人損として扱われ、時効期間は5年となります。
具体的には、肌着、背広、オーバー、ワイシャツ、ネクタイ、靴下、靴などの日常使用する衣服や、義肢、義足、義眼、コルセット、松葉づえ、補聴器、メガネなどの生活するうえで必要不可欠なものがこれに該当します。
ただし、5万円を超える高価な物は物損扱いにされることがあり、人損として5年の時効期間となる物品と言えるためには、5万円以下の価値であることが必要です。
物損扱いとなって時効期間3年にされる物品
指輪・ネックレス・イヤリングなどの宝飾品が交通事故により損傷した場合は、その値段にかかわらず、物損として扱われ、時効期間は3年となります。
また、衣服など日常生活において必要不可欠なものとして身体に密着させているものであっても、5万円を超える価値のものについては、物損として扱われ、時効期間は3年となります。
腕時計は人損か物損か争いがある
腕時計については、裁判例上、人損とするもの(大阪地方裁判所昭和48年6月22日判決 交通事故民事裁判例集第6巻3号1051頁)・物損とするもの(東京高等裁判所昭和48年10月30日判決 判例時報722号66頁)に分けています。
交通事故によって腕時計を破損させた被害者としては、安全を取って、3年で時効にかかると考えておいた方が良いでしょう。
交通事故の日から計算して5年以内(物損だと3年以内)に損害賠償請求しなければ時効にかかってしまうのか?
人損の場合は5年で時効、物損の場合は3年で時効として、これらの年数はいつから計算するのでしょうか?交通事故の日から計算するのでしょうか?
民法上、消滅時効の起算点は、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」から5年(物損の場合は3年)と規定されています(民法第724条1号,民法第724条の2)。
物損の時効は原則として交通事故の日から3年
物損の場合には、交通事故の日に、車両の損傷状況(物損の状況)や加害者を知ることができることが多いため、交通事故の日から数えて3年で時効にかかることが多いです。
ただし、加害者がひき逃げ(当て逃げ)をした場合には、民法第724条1号の「加害者を知った時」には該当しないため、消滅時効のカウントはスタートせず、加害者が見つかった時点から3年で時効ということになります。
具体的には、被害者が加害者の住所・氏名を確認した時から3年の時効期間を数え始めることになります(最高裁判所昭和48年11月16日判決 民集27巻10号1374頁)。
なお、加害者が判明しなかった場合は、永久に損害賠償請求権を行使できるわけではなく、交通事故の時から20年間損害賠償請求権を行使しないと、時効にかかることになっています(民法第724条2号)。
人損の時効は原則として治療終了日から5年
交通事故によってケガをしてしまった場合は、交通事故の日に、加害者の住所・氏名が判明していたとしても、そのケガがどの程度のもので、将来後遺症が残るのかどうかは分からないことがほとんどです。
ケガの程度によって慰謝料額などは変わってきますから、治療が終了するまでは、損害が確定できないということになります。
したがって、人損の場合には、治療終了日(症状固定日)から5年で時効にかかるものとされています。
ただし、加害者や加害者側の保険会社から、治療終了日(症状固定日)を争われることもあり、裁判において主治医が判断した治療終了日(症状固定日)が否定されることもあるので、注意が必要です。
また、後遺症が残らずに完治したという場合には、治療終了日ではなく、交通事故の日から5年で時効にかかるとする裁判例もあるため、この点も注意が必要です。
後遺症の有無、治療終了日がいつか否かにかかわらず、交通事故の日から5年で時効にかかると思っておいた方が、被害者側の態度としては安全ということができます。
なお、加害者がひき逃げをした場合は加害者の住所・氏名を確認した時から数え始めるという点や、加害者が判明しなかった場合でも交通事故の時から20年で時効にかかるという点は物損の場合と同様です。
時効は止めたり伸ばしたりすることができます(①示談提案・一部弁済・②裁判・③内容証明)
時効には、完成猶予や更新という制度があり、時効期間を止めたり伸ばしたりすることができます。
物損は3年以内に解決しなければならない、人損は5年以内に解決しなければならないということではありません。
具体的に、よく用いられる3つの方法を紹介します。
①加害者や加害者側の保険会社から示談提案や一部弁済を受ければ時効は止まる
民法では、「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。」と規定されています(民法第152条1項)。
交通事故損害賠償請求における、この「権利の承認」の典型例が、保険会社からの示談提案です。
このままだともうすぐ時効にかかってしまうという状況の場合は、加害者や加害者側の保険会社に連絡をして、いくらだったら出せるのかという提案をし、とりあえずの示談提案を受けるのが得策といえます。
また、裁判例上、債務の一部弁済も、債務の承認を表明するものと捉えられていますので(大審院大正8年12月26日判決 民録25号2429頁)、このままだともうすぐ時効にかかってしまうという状況の場合は、とりあえず少額でも慰謝料額などの支払をさせるというのも得策といえます。
注意点としては、人損と物損は別ということです。
たとえば、人損について示談提案を受けたり一部弁済を受けたりしても、人損の時効は止まりますが、物損の時効は止まりませんので、注意してください。
なお、時効期間が過ぎた後に、示談提案を受けたり、一部弁済を受けた場合も、加害者の側は、時効主張をすることができなくなります(最高裁判所昭和41年4月20日大法廷判決 民集20巻4号702頁)。
②裁判をすれば時効は止まる
このままだともうすぐ時効にかかってしまうという状況の場合は、とりあえず裁判をすることで時効は止まります(民法147条1項1号)。
①の加害者側から示談提案を受けたり一部弁済を受けたりして時効を止めるという方法は、相手がそれらの行動をしてくれなければ時効は止まりませんが、裁判をすることは加害者側の同意なくしてできますので、加害者側が示談提案や一部弁済をしてくれないという場合は、裁判所に対して訴訟を提起することによって時効を止めましょう。
③内容証明郵便を出せば時効が半年伸びる
民法では、「催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」と定められています(民法第150条1項)。
加害者側が示談提案や一部弁済をしてくれず、もうすぐ時効が完成してしまうが、裁判をする準備がまだ整っていないという場合は、とりあえず内容証明郵便を加害者側に発送して、時効を半年伸ばしましょう。
この催告というのは、加害者や加害者側の保険会社に対して、「あなたに対して、令和●年●月●日午前●時●●県●●市●番●先路上にて発生した交通事故について、損害賠償請求をする予定です。」という程度の記載で足りますので、ご自身にて発送できますし、本当に催告の効果が生じるのか不安であれば、弁護士に依頼することによってすぐ発送してくれます。
内容証明郵便の発送によって時効期間を半年間伸ばし、その間に②の裁判の準備をして、正式に時効を止めることになります。
なお、催告というのは、何回も行って、半年ずつ時効を伸ばすことは許されておらず、1回に限り有効とされています(民法第150条2項)。
交通事故で時効期間が気になる方は被害者側専門の弁護士に相談しましょう
時効期間は3年なのか5年なのか、時効期間はいつから数えるのか、時効期間の中断はなされたのか、これから時効を止めることはできるのかといった事柄は、専門の弁護士でなければ判断がつかないこともあります。
小杉法律事務所では、10年以上前の交通事故を時効にかけることなく解決した事例もありますし、当然のことではありますが、依頼者の慰謝料請求権などの損害賠償請求を時効にかけてしまって消滅させてしまったということは1000件を超える解決事例の中で1度もありません。
交通事故から長い年月が経っているということは、その分、遅延損害金が多く発生しているということでもあります(令和2年3月31日以前の交通事故だと年5%・令和2年4月1日以降の交通事故だと年3%の金利が付きます。)。
時効にかかってしまったと思われるようなケースであっても、時効の起算点をずらしたり、中断事由などを生じさせることによって請求が可能となることもあります。
以前に交通事故に遭われてしまったという方で、時効が気になるという方・すでに時効だと思ってあきらめかけているという方は、無料で法律相談を実施しておりますので、まずはご相談ください。