交通事故コラム

素因減額

素因減額

2020.08.11

1 素因減額とは

素因減額とは、被害者が事故前から有していた、既往症や、身体的疾患又は心因的疾患が、事故による損害に寄与して、損害が拡大してしまったという場合、寄与した割合によって、損害賠償額を減額することをいいます。

2 身体的疾患による素因減額
身体的疾患とは、被害者の既往症や身体的な特徴が被害者の損害拡大に寄与していると思われる場合のことをいいます。実務上よく問題となるのは、椎間板ヘルニア、変形性頚椎(腰椎)症、脊柱管狭窄症、  OPLL(後縦靭帯骨化症)等だが、これらの身体的疾患があるからと言って、すべての場合に素因減額がされるわけではありません。

例えば、素因減額を否認した裁判例として有名な裁判例が、いわゆる「首長判決」と呼ばれる裁判例です。事案の特徴としては、人の平均的な体格に比して首が長く、多少の頚椎の不安定症があるという特徴(素因)のあった被害者が、交通事故に遭ったという例です。
この事案において、裁判所は、「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しないかぎり、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。」として、素因減額を否定しました(最高裁平成8年10月29日判決)。
そのほかにも、被害者の状態は疾患ではなく、身体的な特徴に過ぎないとして素因減額を否定した例としては、被害者が妊娠中であったもの、年齢の割には骨密度が低下していたもの、脊柱管狭窄症であったものなどがあります。

つまり、ある身体的疾患が、素因減額の対象になるか否かは、身体的「特徴」にとどまるものなのか、本来的な「疾患」とまで評価できるものなのかで、判断されていると考えられます。

3 心因的疾患による素因減額

心因的疾患とは、被害者の精神的傾向が、被害者の被害の拡大に寄与していると思われる場合のことをいいます。被害者にうつ病等の既往症がある場合や、被害者がストレス耐性が弱い場合等に問題となるが、心因的疾患があるからといって、身体的疾患の場合と同様すべての場合に素因減額がされるわけではありません。

例えば、むち打ち症で10年以上の通院を要したと主張した事件の裁判では、事故と因果関係のある損害を3年間の範囲の損害と認定した上で、被害者の特異な性格や回復への自発的意欲の欠如などが損害に寄与したとして、3年間の範囲で認定された損害についても、「そのすべてを加害者に負担させるのは公平の理念に照らして相当ではない・・・その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与している。」として、素因減額を行いました(最高裁判例昭和63年4月21日判決)。

一方で、事故以前に心療内科に通院していたとしても、治療期間が一定の範囲内にとどまっている場合には、素因減額を否定した裁判例もあります。

4 素因減額の留意点のまとめ

以上のように、一見「素因」があるように思えても、それが「特徴」にとどまるのか、「疾患」とまで評価できるのかは、医療記録や過去の裁判例を調査検討する必要がありますし、そもそも、「損害の公平な分担の見地から、素因減額をすべき事例かどうか」を調査検討する必要があります。

この記事の執筆者

小杉 晴洋
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災などの損害賠償請求解決件数1000件超。

経歴
小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身・福岡市在住。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(当時。現「神奈川県弁護士会」)に登録後(損害賠償研究会所属)、福岡県弁護士会に登録換え(交通事故委員会所属)。