交通事故コラム

靭帯損傷

肩の靭帯損傷

2020.08.11

腱板損傷(腱板断裂)

腱板損傷は、交通外傷で多発する外傷である一方で、因果関係を否定されやすく争点化しやすいという特徴をもつ損傷です。

まず、肩の組織を俯瞰します。

一般的に、「肩」と呼ばれているものは、骨、肩甲骨、鎖骨の3つの骨から構成されています。肩関節はボール状の上腕骨頭と浅い受け皿状の関節窩から構成されています。
腱板は浅い不安定な関節を安定化させる役割を持っています。また、腱板は腕を挙げたり、捻ったりする運動を時に重要な働きをします。

腱板と骨の間には滑液包があります。滑液包は腕を動かす時に腱板がスムースに移動できるように助ける役割をはたします。腱板断裂では滑液包に炎症が生じ痛みの原因となることがあります。

原因と病態

 

(1)概要

腱板は、肩甲下筋・棘下筋・棘上筋・小円筋の肩関節を動かす 4つの腱(筋肉と骨を結ぶ軟部組織)から構成されています。棘上筋の損傷が最も多く見られます。

腱板損傷はこれらの腱が損傷を受けた状態であり、断裂の状態により、完全断裂、部分断裂が生じます。

腱板は肩関節を安定させ動かすために重要なものです。40歳頃からこの腱の老化が始まり、強度低下による断裂の危険性が高まります。仕事で重いものを持つ人、転落や交通事故で肩を打撲した人、転倒などの大きいけががきっかけで断裂する場合と、日常生活の動作の中で自然に断裂する場合があります。日常生活の中で自然に断裂した場合でも、症状が発症しない人が多く、不顕性損傷と呼ばれる状態のまま、損傷に気付かず生活されている方が多いのです。それがたまたま交通事故にあったことによって症状が発生した、ということで、事故と腱板損傷との間の因果関係に疑義が呈されるのです。

以上のことから、交通事故における肩の腱板損傷の評価は、

①そもそも腱板損傷が生じているか

②腱板損傷があるとして、外傷による新鮮なものか

という順序で行われます。

(2)症状

肩の痛み、肩関節可動域制限

(3)認定されうる後遺障害等級

肩の痛みの後遺障害等級である12級13号や14級9号のほか、可動域制限を理由として以下の等級が認定され得ます。

後遺障害等級第10級10号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
後遺障害等級第12級6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

腱板損傷の主訴はあくまで「痛み」です。腱板損傷により直接的に可動域制限が生じることは少なく、腱板損傷→痛みにより動かさない→拘縮という経過を経て可動域制限が生じます。そのため、腱板損傷によって可動域制限が生じている場合には、可動域制限が生じていること及びそのメカニズムが説明されていることを前提として、「高度な可動域制限が生じるような原因があるのか」という視点で判断されます。

(4)必要な検査など

ア レントゲン撮影

レントゲンでは、肩の腱板は映りません。

しかし、肩の腱板損傷が生じている場合には、関節の隙間が狭くなっていることがありますので、いわゆる関節裂隙というものを確認します。

また、変性断裂(交通外傷ではない断裂)か否かを確認するために、骨棘の有無(骨棘が生じていれば、交通事故でない断裂と判断されやすい)などの変性所見を確認します。

イ MRI

MRI検査は腱板の評価に有用です。腱板断裂の有無、大きさの確認をすることができます。

T2強調像やT2✳︎(スター)強調像、STIRの主に斜冠状断像で診断し、該当筋の連続性を確認します。また、T1強調像で、腱板の落ち込みを確認することもあります。

ウ インピンジメントの有無の確認

腱板断裂に限った話ではないですが、肩の障害の場合には、インピンジメント兆候の有無を確認してもらいます。インピンジメント兆候の有無で治療内容が変わることもありますし、変性断裂なのか新鮮な損傷なのかを推測することもあります。

エ 疼痛誘発テスト

full can testやempty can testが有名ですが、腱板の動きや疼痛の有無を確認する検査があります。腱板損傷か否かが不明という場合には有用です。

(5)注意点

腱板損傷を原因とする症状について、後遺障害を申請する場合の注意点は、以下のとおりです。

① 受傷機転を確認する。

腱板損傷は、手をついて肩に圧力がかかって損傷する場合(介達外力がかかって損傷する場合)と、直接肩がコンクリートなど硬いものにぶつかって損傷する場合(直達外力で損傷する場合)とがあります。

低速度での追突の場合など、腱板損傷がおよそ起こりえないと思われるような受傷機転の場合、「事故による腱板損傷ではない」として因果関係が否定される可能性があります。仮にそのような場合でも、肩をドアにぶつけなかったか、ハンドルを持ったまま踏ん張る形で肩に圧力がかからなかったかを確認する必要があります。

② 周辺組織の損傷を確認する。

腱板だけがピンポイントで損傷することもあるのですが、外傷により腱板が損傷する場合、脱臼(亜脱臼を含む)や骨折などが併発していることもあります。周辺組織の新鮮外傷の痕跡があれば、腱板損傷も新鮮損傷であることが推認できますので、周辺組織の損傷を確認することが大事です。

③ MRIなど必要な検査をお願いする。

腱板損傷において、MRIは必須の検査です。事故後数か月してMRIを撮影し、腱板損傷が判明しても、それが事故直後から生じていたことの立証にはなりません。

(2)に挙げた症状のほか、特徴的かつ具体的な症状として、

・じっとしている時の肩の痛み、仰向けで寝ているときの肩の痛み

・腕を挙げた時、降ろすときの肩の痛み

・新聞を持つ、ドライヤーを使うときに肩がだるくなり降ろしたくなる

・腕を挙げたとき、下ろすときに引っかかり感、音がする

などの症状がある場合には、MRIを撮影していただくように主治医の先生に頼んでみましょう。

④ 術中所見を確認する

腱板損傷で手術が行われた場合には、術中所見を確認してください。

手術が行われている時点で、腱板損傷の存在自体は明らかなので、あとはそれが新鮮なものといえるか否かです。

術中所見で、損傷が鋭角である場合などは、新鮮損傷である可能性が高いといえますし、逆に、鈍角である場合や、輪ゴムが経年劣化で切れたときの断面のような切れ方であれば、変性断裂であることが推認されます。

この記事の執筆者

小杉 晴洋
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災などの損害賠償請求解決件数1000件超。

経歴
小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身・福岡市在住。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(当時。現「神奈川県弁護士会」)に登録後(損害賠償研究会所属)、福岡県弁護士会に登録換え(交通事故委員会所属)。