交通事故コラム

骨折

肋骨の骨折

2020.08.11

肋骨骨折

(1)概要

胸部外傷の中で最も生じやすく、衝撃が強い場合には、複数の肋骨が骨折することが多く、肺や心臓、血管の損傷を伴うこともあります。

1~2本の骨折は保存療法をとり、有動性の動作を避け、骨癒合を待つことが選択されています。また、3本以上の肋骨が折れているような病態ではまず臓器の損傷を疑い、整形的診療よりも内科的診療に気を配ることとなります。なお、第1~3肋骨骨折は腕神経叢の損傷、鎖骨下動脈の損傷が3~15%に、第8~11肋骨骨折では肝損傷や脾臓・腎臓損傷や横隔膜損傷が28~58%に合併することがあると報告されています。

肋骨が骨折することは稀とは言えず、折れた肋骨が肺などに刺さって内蔵欠損や内臓損傷が起こらない限り、保存療法で軽快することがほとんどとされています。一方で、肋骨骨折後の治癒過程で、筋肉を巻き込んで癒合してしまうことがあり、その場合には肋骨骨折後に痛みが残存することもあります。

似て非なるものとして、「胸骨骨折」があります。胸骨と肋骨とは別の骨ですので、その差異には十分注意してください。

(2)症状

骨折部位の疼痛(痛み)、腫脹(腫れ)、圧痛、咳・深呼吸時の疼痛

(3)認定されうる後遺障害等級(疼痛等感覚障害以外)

後遺障害等級第12級5号 鎖骨,胸骨,ろく骨,けんこう骨,又は骨盤骨に著しい変形を残すもの

(4)必要な検査など

ア レントゲン・CT

肋骨骨折は、まずはレントゲンで確認します。しかし、レントゲンでは肋骨骨折が判然としない場合が多いので、レントゲンで異常なしとされていても、強い痛みが持続する場合には、CTの撮影を主治医に依頼してみてください。CTで初めて肋骨骨折が見つかる場合も多くあります。また、症状固定時にきちんと癒合しているか、癒合しているとしても不整癒合や変形癒合がないかは、CTで確認する必要があります。

イ 外見からの変形確認

肋骨骨折後の痛みは多くの場合軽快するとされていますが、肋骨が骨折したことによって、曲がった状態で骨がくっつき、いわゆる「変形」を残すことがあります。変型の有無はレントゲンやCTでも確認可能な場合もありますが、外見から確認できる程度の変形が後遺障害等級の基準とされていますので、外見から肋骨の変形が確認できるか、賞状固定時に写真撮影を行ったり医師に視診していただくことをお勧めします。

(5)注意点

① 症状固定時ないしは症状固定に近い時期にCTの撮影をお願いする。

一般に、肋骨骨折は、レントゲンで経過を追います。そして、骨が癒合すれば、「治癒」と表現されることが多い病態です。そのため、変形の有無の確認が不十分となることがあります。

そこで、症状固定を迎える際、肋骨の痛みが続いていたり、外見上も変形が認められる場合には、変形の有無や程度などの確認のため、CT撮影をお願いしましょう。

② 症状固定時に写真撮影を行っておく。

(4)のとおり、肋骨の変形の後遺障害等級の認定要件は、「裸体になったとき、変形(欠損を含む)が明らかにわかるもの」とされています。そのため裸体となって、変形した肋骨部位の写真撮影をすることが、必要です。なお、写真撮影の際には、可能な限りいろんな角度から写真を撮影するとともに、骨折側(患側)と骨折していない側(健側)の対比がわかるように写真撮影されることをお勧めします。現行の後遺障害等級認定手続は、実際に被害者の身体を診て等級を判断してくれるわけではありませんので、写真が決め手となることがあります。

③ 変形障害の隠れた要件

変形障害の要件は上述のとおりなのですが、実は、単に「骨が盛り上がって癒合してしまった」という状態だけでは、後遺障害の認定実務上は、変形障害とは認められないこともあります。変形障害は、「変形を残すに足る骨折態様」が隠れた要件とされていると考えられており、転位の有無などを確認して変形を残すに足る骨折態様だったことを立証する必要があります。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。