交通事故コラム

骨折

口・歯・顎関係の骨折

2020.08.11

①下顎骨骨折

(1)概要

下顎の骨で、骨折は関節突起、筋突起、下顎枝、角部、体部、結合部それぞれの部位に生じます。

外力が直接当たった部位が骨折する場合と、外力の対側が間接的に骨折する場合があります。

(2)症状

骨折部位の疼痛(痛み)、腫脹(腫れ)、開口障害(口が開けづらくなる)、咬合不全(かみ合わせのずれ)、下顎の知覚麻痺

(3)認定されうる後遺障害等級(疼痛等感覚障害以外)

後遺障害等級第1級2号 そしゃく及び言語の機能を廃したもの
後遺障害等級第3級2号 そしゃく又は言語の機能を廃したもの
後遺障害等級第4級2号 そしゃく及び言語の機能に著しい障害を残すもの
後遺障害等級第6級2号 そしゃく又は言語の機能に著しい障害を残すもの
後遺障害等級第9級6号 そしゃく及び言語の機能に障害を残すもの
後遺障害等級第10級3号 そしゃく又は言語の機能に障害を残すもの

(4)必要な検査など

下顎骨骨折は、まずはレントゲンで確認します。

ただし、顎骨長軸に平行な骨折線は見落とされやすいので、咬合の異常、開口障害、嚥下障害、流唾や腫脹などの症状が見受けられた場合には、CTを撮影していただくよう主治医の先生に依頼されることも検討してください。

(5)注意点

① 特徴的症状を確認する。

一口に下顎骨折と言っても、骨折部位や骨折態様で、発現する症状は様々です。以下の症状を確認してください。

・咬合異常

・外貌の変形、下顎の腫れ

・開口障害

・嚥下障害

・流唾

・知覚障害

・軋轢音

・歯肉部の出血、裂傷

これらの症状がなければ、下顎骨折との診断が下されない場合もあります。

② 症状固定時ないしは症状固定に近い時期にCTの撮影をお願いする。

一般に、下顎骨折は、レントゲンで経過を追います。そして、骨が癒合すれば、「治癒」と表現されることが多い病態です。そのため、不正癒合や変形の有無の確認が不十分となることがあります。

そこで、症状固定を迎える際、骨折部の痛みが続いていたり、オトガイ部の知覚異常が続いている場合には、CT撮影を検討してもらってください。

③ 嚥下障害がある場合そのメカニズムを後遺障害診断書等に記載してもらう

下顎骨折後に嚥下障害がある場合であっても、直ちに後遺障害等級として嚥下障害が認定されるものではありません。嚥下障害は、食道への侵襲の場合を除いては、認められずらいのが現状です。そのため、嚥下障害が残存している場合には、たとえば下顎骨骨折の病態は高度な転位を伴うもので、そしゃく関与筋群の損傷や、嚥下機能関与筋群の損傷が認められ、結果、嚥下障害が残存した等のメカニズムを診断書類に記載していただくことが肝要です。

④ 下顎の機能から広く後遺障害該当性を考える

人体における下顎の機能は、咬合や嚥下、そしゃくなど、様々な機能を有しています。そのため事故により下顎骨折が起こった場合には、病態を限定せず、幅広い視野で後遺障害等級該当性を検討してください。

可能性としては、骨折部の疼痛以外に、外貌の変形、そしゃく障害、嚥下障害、咬合異常、そして外貌醜状(骨折痕)などが認められます。

⑤ 下歯槽神経の損傷を見逃さないようにする。

下顎骨折では、痛みを自覚する方は多いですが、痛みや腫れが強いせいか、知覚異常の確認が不足しているケースが見受けられます。下顎部には下歯槽神経という、オトガイ部皮膚の知覚を司る神経が走行しており、これが損傷されると、オトガイ部に知覚異常が生じます。骨折の態様や転位の有無などから、下歯槽神経の損傷があり得るのか、知覚障害はないのか、を確認してください。

②歯牙障害

(1)概要

歯が欠けたり折れたりして、歯科補てつを加えた状態です。

(2)症状

歯の欠損、喪失、抜歯、補てつ

(3)認定されうる後遺障害等級

後遺障害等級第10級4号 14歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
後遺障害等級第11級4号 10歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
後遺障害等級第12級3号 7歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
後遺障害等級第13級5号 5歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
後遺障害等級第14級2号 3歯以上に対し歯科補てつを加えたもの

(4)必要な検査など

歯牙欠損は、損傷状態を写真撮影することに加え、場合によってレントゲン写真で状態を確認します。歯牙欠損は医師からみてもその範囲と程度が明確なので、歯牙欠損に加えて周辺部位の骨折などが併発していなければ、それ以上の精密検査を行われることは稀です。

(5)注意点

① 歯科用の後遺障害診断書を記載してもらう。

後遺障害診断書には、「歯科用」があります。歯牙欠損の後遺障害等級の認定実務上、歯の3/4以上が損傷したり補綴を加えていなければ、欠損とは認定されない運用となっていること、一方で既往歯も含めて後遺障害等級認定がされることに注意が必要です。

② 既往歯も診断書に記載してもらうことを忘れずに。

歯牙欠損の後遺障害認定実務上、既往歯(ただし3/4以上が損傷ないし補綴を加えたもの)を含めて後遺障害等級が認定されます(もちろん、外傷性の歯牙欠損が一本もない場合には論外です。)。

具体的には、2歯が既往歯で3/4以上に補綴を加えていた歯の横の歯が1歯全部そう失した場合には、既往2歯+外傷1歯の損傷の、計「3歯以上に対し歯科補てつを加えたもの」として、後遺障害等級が認定されます。

③ ブリッジ治療の場合にはその旨とブリッジを施した歯の個数と範囲を記載してもらう。

ブリッジ治療は、外傷により損傷した歯のみならず、健康な歯にも影響を及ぼします。健康な歯に加えた処置は「欠損」には該当しない場合が多いでしょうが、後遺障害認定手続後の交渉を見据え、健康な歯にも影響があったことは、診断書に記載してもらっていたほうがよいでしょう。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。