後遺障害等級の解説

後遺障害等級一般論

加重障害

加重障害

本コラムは、弁護士小杉晴洋が福岡県弁護士会において行った加重障害の講演内容を元に記しております。

加重障害とは

加重障害とは、既に後遺障害のある被害者が、2度目の事故により傷害を受けたことによって、同一部位について後遺障害の程度を加重した場合における2度目の事故による後遺障害をいいます。

簡単に言うと、過去に交通事故に遭って後遺障害認定を受けたことがある人がまた交通事故に遭ったとか、交通事故と関係なく持病を有していた人が交通事故に遭ったという場合に、今回の交通事故での後遺障害の判断に、以前から有している症状が影響を受けるかどうかという話です。

過去に後遺障害等級の認定を受けたことがある方や、交通事故の前から持病を有していた方については、この加重障害という問題に直面する可能性がありますので注意が必要です。

 

自動車損害賠償保障法施行令2条2項の規定や解釈について

加重障害については、自動車損害賠償保障法施行令2条2項に規定があります。

条文

「法第十三条第一項の保険金額は、既に後遺障害のある者が傷害を受けたことによって同一の部位について後遺障害の程度を加重した場合における当該後遺障害による損害については、当該後遺障害の該当する別表一又は別表二に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額から、既にあった後遺障害の該当するこれらの表に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額を控除した金額とする。」

※法第十三条第一項:「責任保険の保険金額は、政令で定める。」

条文解釈

要約すると、①既に後遺障害のあった者が、②同一部位について、③障害の程度を加重した場合、その加重した限度で自賠責保険金の支払いがなされるということが規定されています。

支払われる自賠責保険金は、「新しい障害の金額-既往症の障害の金額」ということになります。

例えば、元々9級に該当する後遺障害を有していた人が交通事故に遭って、同一部位について後遺障害等級3級の障害が残ってしまった場合、支払われる自賠責保険金は、後遺障害等級3級の自賠責保険金2219万円-後遺障害等級9級の自賠責保険金616万円=1603万円となります。

実際の事件で問題となる要件は、①「既に後遺障害のある者」であるかどうかと、②「同一の部位」に該当するかどうかです。

「既に後遺障害のある者」であるかどうか

加重障害が問題となるケースでは、交通事故によって生じた後遺症が後遺障害等級表の等級に該当するかどうかの判断とは別に、既存障害が後遺障害等級表に該当するかの判断がなされます。

既存障害が先天性のものか後天性のものかは問われず、また、過去の後遺障害で賠償を受けたかどうかも問われません。

既存障害の後遺障害等級該当の判断は甘めになされる印象があり(被害者側にとっては損)、被害者側の戦い方としては、自賠責保険が既存障害等級を重めに認定した場合、その等級認定を下げるというやり方があります。

「同一の部位」であるかどうか

1 従来の自賠責保険の運用

自賠責保険の運用は、「同一の部位」であるかどうかの判断は、同一系列にあたるかかどうかで判断されていました。

従いまして、例えば、元々脊髄損傷による下肢の対麻痺の既存障害を有していた車いすの人が、自動車にはねられて頚椎捻挫となった場合、これらの症状は同一系列であるため、車いすの被害者に頚椎捻挫由来の首の痛みについて、後遺障害等級14級9号が認定されることはありません。

これに対して、末梢神経障害における局部の神経症状の場合は、従来から「同一の部位」に該当するとは判断されていません。

例えば、過去に頚部痛で14級9号の認定を受けていた者が、右膝痛で14級9号の認定を受ける場合は、「同一の部位」に該当するとは判断されません。

他方で、既存障害が頚椎捻挫による右腕のしびれで、新たな障害が頚椎捻挫による右手のしびれの場合は、右上肢ということで同一であるので、局部の神経症状といえども「同一の部位」に該当すると判断されてきたように思われます。

例えば、第1事故で頚椎捻挫由来の頚部痛と右上肢シビレ、第2事故で頚椎捻挫由来の頚部痛と左上肢シビレという場合で、いずれも後遺障害等級14級9号程度とすると、

・第1事故 頚部痛と右上肢シビレにつき14級9号(※併合14級ではない)

・第2事故 頚部痛非該当(既存障害から加重無し)・左上肢シビレ14級9号

ということになります。

いずれも後遺障害等級12級13号程度とすると、

・第1事故 頚部痛と右上肢シビレにつき12級13号(※併合11級ではない)

・第2事故 頚部痛非該当(既存障害から加重無し)・左上肢シビレ12級13号

ということになります。

既存障害が12級13号・新しい障害14級9号だとすると、

・第1事故 頚部痛と右上肢シビレにつき12級13号(併合11級ではない)

・第2事故 頚部痛非該当(既存障害から加重無し)・左上肢シビレ14級9号

ということになります。

既存障害が14級9号・新しい障害が12級13号の場合は、第2事故における自賠責保険の処理が不明で、

・第1事故 頚部痛と右上肢シビレにつき14級9号(※併合14級ではない)

・第2事故 頚部痛は12級13号-14級9号(既存障害からの加重)ですが、左上肢シビレで新たに12級13号が認定されるので、12級の自賠責保険金224万円-14級の自賠責保険金75万円ではなく、新たな12級13号につき224万円の自賠責保険金が支払われるのが自然だと思われます。

なお、既存障害が頚椎捻挫による右手のしびれで、新たな障害が右手関節捻挫による右手の痛みの例につき、こちらの解決事例をご覧ください。

2 新しい判決

自賠責保険を被告とした東京高等裁判所平成28年1月20日判決(以下「同一部位判決」という。)において、「『同一の部位』とは、損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位をいうと解すべきである。」との判断が示されたため、今後は自賠責保険の運用も、形式的に同一系列かどうかで判断するのではなく、個別具体的に既存障害と交通事故による障害とが「同一の部位」なのかどうか判断される可能性が出てきました。

現に当事務所の解決事例でも、従来、自賠責保険では非該当とされていた障害者の方の交通事故事案について後遺障害等級の獲得ができています(この解決事例の詳細はこちらのページをご覧ください。)。

上記の車いすの事例は、同一部位判決の事例ですが、下肢の対麻痺と、頚椎捻挫による頚部痛はまったく関係ないので、同一部位判決の理論に従えば、これらは「同一の部位」に該当すると判断されることはなく、後遺障害等級14級9号であると認定されることになります(なお、「同一の部位」に該当すると判断された場合は、「障害の程度を加重した」とは言えないことから、非該当と判断されことになります。)。

また、既存障害が中枢神経障害における局部の神経症状の既存障害(高次脳機能障害12級13号など)や末梢神経障害における後遺障害等級9級以上の既存障害(CRPS)を有する場合において、別部位に局部の神経症状を残す場合も、後遺障害等級が認定される可能性が出てきたといえます。

 

加重障害事案における注意点

既存障害の有無をチェックする

加重障害事案においては、そもそも既存障害・既往症があるのかどうかをチェックするところから始まります。

後で既存障害が判明すると、当初の見込んでいた損害額が減額されてしまう可能性があるため、事前に既存障害・既往症の有無を把握しておくことが重要です。

また、診断書などの既存障害欄に「有」とチェックされていないかどうか、カルテなどに既存障害に関する記載がないかどうかを確認することも重要となります。

既存障害を窺わせる記載が医証の中に存在する場合は、自賠責保険が既存障害の調査を始めてしまいます。

既存障害が不当に高く評価されていないかをチェックする

既存障害が後遺障害等級表に該当すると判断されると、今回の事故における後遺障害等級-既存障害の後遺障害等級の自賠責保険金しか受け取ることができなくなってしまいます。

また、今回の事故における後遺障害等級が既存障害の後遺障害等級よりも低いと、非該当と判断され、後遺障害であるとの認定すらされなくなってしまいます。

そこで、まずは既存障害について判断された後遺障害等級が不当に高く評価されていないかをチェックし、既存障害の後遺障害等級を下げられるかどうかを検討していくことになります。

この点については、医師面談及びそれに基づく意見書が有効で、既存障害等級を下げられる可能性があるのであれば、異議申立て→紛争処理申請と進んでいくことになります。

被害者請求段階で既存障害の点が論点になることが判明していれば、既存障害についての意見書や証拠をつけて被害者請求をするという方策をとることもあります。

「同一の部位」に当たるのかどうかをチェックする

既存障害が後遺障害等級に該当するとしても、そもそもそれが「同一の部位」に当たるのかどうかのチェックが必要です。

既存障害があったとしても、「同一の部位」に当たらないということができれば、既存障害が何級であると評価されても、新しい後遺障害について等級が付けられるからです。

形式的には同じ部位に症状が残っていても、原因が違うのであれば、「同一の部位」と評価されずに、新たに後遺障害についての等級が付けられることがありますし、また、今後は同一系列であるかどうかではなく、個別具体的な判断がなされますので、中枢神経の障害なのか末梢神経の障害なのか、既存障害と新しい障害との間に医学的な関連はあるのかなどの立証により自賠責保険の判断が覆る可能性があります。

自賠責保険の判断を鵜呑みにせず、既存障害と新しい障害との関係を丁寧に調査し、症状についての原因が違う等の理由が見いだせそうであれば、異議申立て→紛争処理申請と進んでいくのが良い方策といえます。

既存障害と今回の交通事故との時間差をチェックする

例えば、以前に頚椎捻挫由来の頚部痛について「局部に神経症状を残すもの」として14級の認定を受けていた場合、将来交通事故に遭って頚椎捻挫由来の頚部痛について「局部に神経症状を残すもの」として14級の認定を再度受けることはありません。後遺障害というのは永久残存性を有するとされており、自賠責保険は過去の判断に拘束されることになっています。

しかしながら、実際問題として、むち打ちの後遺障害等級14級9号程度ですと、逸失利益が67歳まで認められることは少なく、5年などに制限されるケースが多いです。例えば、15年前の頚椎捻挫で14級と認定され労働能力喪失期間5年分の賠償を受けた者が、新しい交通事故により頚椎捻挫由来の頚部痛が生じた場合、逸失利益を一切もらえないというのは不合理です。

そこでこのような場合には、訴訟提起をして、今回の新たな後遺障害についての主張立証を行っていくことが適切であるといえます。

 

加重障害事案における実際の解決事例

既存障害等級を下げることにより今回の交通事故の後遺障害等級を獲得した事例

●既存障害:てんかん 新しい障害:顔面骨折

この事例では、てんかんの既往症を有していた方が交通事故によって顔面を骨折してしまい、顔に神経症状が生じてしまいました。

自賠責保険の判断は既存障害のてんかんが後遺障害等級9級10号に該当することから、顔の神経症状は後遺障害等級には該当しないというものでした。

この事例では、既存障害のてんかんが後遺障害等級9級10号には該当しないとする紛争処理申請をすることによって、顔の神経症状の後遺障害等級を新たに獲得しています。

この解決事例の詳細はこちらのページをご覧ください。

●既存障害:右膝痛 新しい障害:右膝痛

この事例は、過去に右膝での通院歴のあった方が交通事故に遭い右膝を骨折してしまったというケースです。

自賠責保険は、骨折に伴う右膝痛について後遺障害等級12級13号の認定をしましたが、元々右膝について既往症を有していたことから、既存障害14級9号の認定も行い、12級の自賠責保険金(224万円)から14級の自賠責保険金(75万円)を引いた149万円についての支払を行ってきました。

しかしながら、既往症とされている右膝痛は後遺症と評価するようなものではなかったため、その点を指摘する紛争処理申請を行い、既存障害を非該当判断に変更させることで、既存障害によるマイナスを打ち消しました。

この解決事例の詳細はこちらのページをご覧ください。

「同一の部位」には当たらないとすることにより今回の交通事故の後遺障害等級を獲得した事例

●既存障害:右肩痛 新しい障害:右肩しびれ

この事例は、以前、右肩痛で後遺障害等級12級12号(当時。現12級13号)の認定を受けていた方が、約15年後に新たに交通事故に遭い、頚椎捻挫の症状として右肩にしびれが出てしまったというケースです。

自賠責保険は、過去に右肩について後遺障害等級を獲得していたことを理由に、今回の交通事故では、後遺障害等級非該当の判断をしました。

しかしながら、過去の交通事故の記録を取り寄せて精査したところ、以前の後遺障害と今回の後遺障害は、原因が異なることが判明します。

そこで、その点を指摘して異議申立てをしたところ、今回の事故で、右肩の症状について後遺障害等級14級9号が認定されました。

この解決事例の詳細はこちらのページをご覧ください。

●既存障害:胸髄損傷 新しい障害:頚椎捻挫

この事例は、元々胸髄損傷を障害を持っておられる方が、追突事故に遭ってしまい、首のむち打ちとなってしまったというケースです。

従来の自賠責保険の考え方では、同一系列で後遺障害等級1級の既存障害あるため、その後いかなる神経症状が後遺症として残ってしまったとしても、後遺障害等級の認定がなされることはありません。

ただし、この被害者の方は、胸から下は何らの障害を有しておらず、頚椎捻挫由来の症状について一切後遺障害等級の認定がなされないというのは不合理です。

そこで、同一部位判決を元に弁護士名義の意見書を作成し、自賠責保険に被害者請求をしたところ、「同一の部位」であるとの評価はされず、後遺障害等級14級9号の認定を得ることができました。

この解決事例の詳細はこちらのページをご覧ください。

●既存障害:むち打ち 新しい障害:むち打ち

交通事故事案において、最も多い傷害は「むち打ち」です。

過去にむち打ちで後遺障害等級を獲得していた場合であっても、「同一の部位」に該当するとの判断を避けることにより、再度後遺障害等級を獲得することが可能です。

過去ににむち打ちでの後遺障害等級認定を受けていた被害者につき、再度むち打ちで後遺障害等級を獲得した解決事例についてはこちらこちらをご覧ください。

時の経過より過去の後遺障害等級を考慮せずに新しく後遺障害等級を獲得した事例

●既存障害:頚部痛 新しい障害:頚部痛

過去にむち打ち症によって後遺障害等級を獲得していた方が、再度交通事故に遭ってむち打ちとなり、同じ部位に症状が出てしまったというケースにおいて、訴訟提起をすることにより、裁判所に改めて同じ部位の後遺障害等級を認定させることができました。

この解決事例の詳細はこちらのページをご覧ください。

 

加重障害における逸失利益の算定

加重障害における逸失利益の算定には、下記の3つの考え方があります。

① 2度目の事故によって新たに生じた労働能力の喪失の程度を認定し、その直前の収入の金額(実収入又は既存の後遺障害を考慮して賃金センサスの平均賃金を減額した額)に、当該労働能力喪失率を乗ずる方式
② 2度目の事故後の後遺障害による逸失利益の金額から、2度目の事故による受傷がなかったとした場合の既存の後遺障害のみによる逸失利益を控除する方式
③ 2度目の事故後の後遺障害による逸失利益の金額から、既存の後遺障害を理由に素因減額(民法第722条2項の類推適用)をする方式

過去に後遺障害等級の認定を受けていた方や、持病による疾患を有していた方であっても、新たな交通事故に遭う前にお仕事をして収入を得ているケースというのは多く存在します。

素直に考えれば、元々障害を有している状態で収入を得ていたわけですから、その収入というのは元々有していた障害を織り込み済みの金額ということになります。

後遺症逸失利益の算定というのは、事故前年の年収を基礎収入額として算定するのが原則とされていますから、原則的な計算方法に従う限り、元々有してた障害は既に基礎収入額の中で考慮されているということができますから、加重障害を理由に逸失利益を減額するべきではないということになります。

従いまして、①の考え方に従い、逸失利益を算定するのが良いと考えられます。

この考え方に従うと、②の考え方は論外ということになりますが、保険会社はなるべく損害賠償額を低く抑えたい立場にありますので、②に立脚して損害額を計算してくることがありますので注意が必要です。

保険会社が②の考え方から譲らないという場合は、裁判をすることをおすすめします。

また、③の考え方というのは、素因減額によって処理するというものですが、加重障害と素因減額とはまったく考え方が異なります。

素因減額というのは、元々有していた疾患によって拡大された損害を減額することにより、損害の公平な分担を図るものですので、昔の後遺障害等級と現在の後遺障害等級を単純比較する加重障害とは体系の違う話ということになります。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。