脳損傷 神経症状
高次脳機能障害の後遺障害等級認定【後遺症被害専門の弁護士解説】
交通事故で頭に怪我をしてしまい、寝たきりになってしまった事例や、介護が必要になってしまった事例、また、事故前と比べ「物忘れが多くなった・怒りっぽくなった・仕事がしづらくなった」などの事例では【高次脳機能障害】が考えられます。
ここでは後遺症被害専門の弁護士が高次脳機能障害の後遺障害等級認定基準について解説していきます。
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高次脳機能障害とは
高次脳機能障害の定義
高次脳機能障害とは、「運動障害や感覚障害などの神経学的症状に対し、失行、失認、健忘、遂行機能障害などのより高次の知的な脳機能の障害を指す」とされています(南山堂医学大辞典)。
「高次の知的な脳機能の障害」というのは、例えば、箱を組み立てるといった単純作業はできるものの、電話で聞き取った内容をパソコンに入力していくといったような仕事で要求される複雑な仕事はできないといった事態が生じます。
身体的には問題のない事例もありますが、高次脳機能障害となると、日常生活や社会適応に支障をきたすことになります。
また、高次脳機能障害の患者自身に、高次脳機能障害であることの自覚がない/自覚に乏しいといった特徴を有します。
脳の構造(脳の連合野で分担される働き)
高次脳機能障害は、脳に損傷を受けたことによって、認知、記憶、思考、注意の持続などの脳の高次脳機能と呼ばれる機能が障害されることを意味しますが、脳が損傷を受けた場所によって生じる症状が異なってきます。
ここではそれぞれの脳の構造(脳の連合野で分担される働き)を見ていきましょう。
前頭葉(前頭連合野)
前頭葉(前頭連合野)では、計画、決定、合理的な目的行動にかかわる「意志」「創造」「思考」「感情」といった機能を司っています。
従いまして、脳のうち前頭葉を損傷してしまうと、例えば、計画や決定にあたり、適切な、意志やイメージや思考や感情を形成できないことになってしまいます。
頭頂葉(頭頂連合野)
頭頂葉(頭頂連合野)では、立体感覚を組み立てたり、身体からの知的情報を受け取り、「理解」「認識」「知覚」といった機能を司っています。
従いまして、脳のうち頭頂葉を損傷してしまうと、例えば、立体感覚がわからなくなってしまったり、物を触れてもその対象物の知覚や認識や理解ができないということになってしまいます。
側頭葉(側頭連合野)
側頭葉(側頭連合野)では、音を聞き分けたり言葉を話すための「聴覚」「言語」機能を司るほかに、「判断」や「記憶」といった重要な働きも有しています。
従いまして、脳のうち側頭葉を損傷してしまうと、例えば、聴覚障害になってしまったり、言語障害になってしまったり、適切な判断ができなくなってしまったり、物事を記憶できなくなってしまったりといった障害が生じてしまうことになります。
後頭葉
後頭葉では、目から入る明暗や色などの情報を処理する「視覚」の機能を司っています。
従いまして、脳のうち後頭葉を損傷してしまうと、例えば、目から入る明暗を調整できなくなってしまったり、色の識別ができなくなってしまったりといった障害が生じてしまうことになります。
小脳
小脳では、身体の平衡を保つ身体の運動の調節機能を司っています。
従いまして、脳のうち小脳を損傷してしまうと、例えば、身体の平衡が保てなくなり、重度のめまいなどの症状が生じてしまうことになります。
脳幹
脳幹では、呼吸や血圧といった中枢機能を司っています。
従いまして、脳のうち脳幹を損傷してしまうと、例えば、呼吸障害が生じたり、血圧に障害が生じてしまうことになります。
高次脳機能障害の原因
高次脳機能障害の原因としては、脳血管障害や頭部外傷、神経変性疾患、脳腫瘍、その他が挙げられています(南山堂医学大辞典)。
本サイトは医学サイトではなく、弁護士による交通事故被害における損害賠償請求に関するサイトですので、頭部外傷を原因とする高次脳機能障害について説明していきます。
高次脳機能障害の診断基準
高次脳機能障害は、画像検査などで客観的異常を確認できないことも多く、的確な診断は必ずしも容易ではないとされています(南山堂医学大辞典)。
脳というのは、非常に複雑で繊細な構造をしていますので、現在の医学水準における、頭部のMRIやCTなどの画像検査では、客観的な異常を発見できないことも多くあるのです。
MTBIが代表的な例ですが、アメリカの医学会では画像検査などで客観的異常が確認できなくとも、高次脳機能障害であり得ることは広く認知されていますが、日本の医学界では、アメリカほどMTBIに関する診断水準が進んでいません。
一応、各種検査項目を組み合わせた標準的検査法や評価法が提案されているところではありますが、特に交通事故などの頭部外傷による損害賠償請求が絡む分野では、依然として、画像検査に重きをおいた判断がなされています。
高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害では様々な症状が見られますが、ここでは後遺障害等級認定において重視されている21の症状を紹介していきます(神経系統の障害に関する医学的意見参照)。
交通事故に遭って頭部を受傷してしまった被害者の方で、これらの症状が1つでも当てはまる場合は、高次脳機能障害として後遺障害等級認定がなされる可能性があります。
- 以前に覚えていたことを思い出せない
- 新しいことを思い出せない
- 疲れやすく、すぐ居眠りをする
- 自発性低下、声かけが必要
- 気が散りやすく、飽きっぽい
- 発想が幼児的、自己中心的
- 話がまわりくどく、考えを相手に伝えられない
- 周囲の人との意思疎通を上手に行えない
- 複数の作業を同時に行えない
- 行動を計画したり、正確に遂行することができない
- 粘着性、しつこい、こだわる
- 感情の変動がはげしく、気分が変わりやすい
- 感情や言動をコントロールできない
- ちょっとしたことですぐ怒る
- 暴言・暴力
- 性的な異常行動・性的羞恥心の欠如
- ふさぎこむ・気分が落ち込む
- 特に理由もなく不安を感じている
- 夜、寝つけない、眠れない
- 幻覚や妄想がある
- 受傷前と違っていることを自分で認めない
自賠責保険による高次脳機能障害の分類や評価方法
脳の障害の分類(器質性の障害と非器質性の障害)
自賠責保険では、まず、脳の障害について、器質性の障害と非器質性の障害に分類しています。
器質性/非器質性の違いは、簡単に言うと、「画像上目に見える/画像上目に見えない」といった分類のことです。
先に述べましたとおり、医学的には画像検査では発見できない高次脳機能障害の存在が認められていますが、自賠責保険実務では、頭部MRIやCT画像によって画像上脳の器質的病変の存在が認められる必要(画像上目に見える必要)があるとされています。
非器質性の障害は、うつ病・転換性障害・身体表現性障害などの精神科・心療内科等の医学領域になり、「非器質性精神障害」として後遺障害等級認定がなされます。
高次脳機能障害というのは、器質性の障害に分類されますので、以下では器質性の障害についての説明をしていきます。
※非器質性精神障害の後遺障害等級認定基準説明のページはこちら
脳の器質性障害の分類(高次脳機能障害と身体性機能障害)
脳の器質性障害(画像上目に見える脳損傷)については、高次脳機能障害(器質性精神障害)と身体性機能障害(神経系統の障害)に分類されています。
後遺障害等級の認定方法は、高次脳機能障害の程度と、身体性機能障害の程度及び介護の要否・程度を踏まえて、総合的に判断されることになっています。
例えば、高次脳機能障害の程度が5級に相当し、身体性機能障害の程度が軽度の片麻痺で7級に相当するといった場合、併合の方法を用いて後遺障害等級3級相当と定めるのではなく、その場合の全体病像として、後遺障害等級1級~3級のいずれかに認定することになります。
高次脳機能障害の後遺障害等級認定の評価方法(4能力評価+介護の要否・程度)
高次脳機能障害の後遺障害等級認定では、①意思疎通能力、②問題解決能力、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力の4つの能力の各々の喪失の程度に着目して、評価を行うことになります。
たとえば、①意思疎通能力について後遺障害等級5級相当、②問題解決能力について後遺障害等級7級相当、③作業負荷に対する持続力・持久力は問題なし、④社会行動能力について後遺障害等級9級相当という場合、最も重篤な①意思疎通能力の障害に着目して、後遺障害等級5級の認定を行うことになります。
なお、高次脳機能障害による障害が後遺障害等級3級以上に該当する場合には、以上の4能力に加えて、⑤介護の要否及び程度も踏まえて後遺障害等級認定を行うことになっています。
自賠責保険による高次脳機能障害の後遺障害等級審査手続
脳外傷による高次脳機能障害特有の症状が確認できるかの振り分け(特定事案の選定)
自賠責保険の損害調査実務においては、下記5つの要素から、脳外傷による高次脳機能障害特有の症状が確認できるかどうかの判定をまず行い、これに該当するとなった場合は、脳外傷による高次脳機能障害の特定事案であるとして、地区本部審査会(又は本部審査会)での専門医の審査委員出席による審査に回します。ただし、遷延性意識障害など、明らかに後遺障害等級別表一1級3号に該当する事例については、審査会の審査を経ずに後遺障害等級認定がなされます。
- 初診時に頭部外傷の診断があり、頭部外傷後の意識障害、具体的には、半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態(JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは健忘症~軽症意識障害(JCSが2~1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いた症例
- 経過診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷等の診断がなされた症例
- 経過診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する具体的な症状(記憶・記銘力障害、失見当識、知能低下、判断力低下、性格変化、易怒性、感情易変、多弁、攻撃性、暴言・暴力、幼稚性、病的嫉妬、被害妄想、意欲低下)、あるいは失調性歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経徴候が認められる症例
- 頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも3か月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認される症例
- その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例
地区本部審査会より本部審査会への移送
認定困難事案
下記5つの認定困難事案に該当する事例では、地区本部審査会から本部審査会へ移送が行われ、本部審査会にて後遺障害等級認定の審査が行われます。
- 意識障害がない事例(医療照会の結果、意識障害の有無・程度が確認できなかった事例を含む。)
- CT・MRI等の画像資料上、脳室拡大・脳萎縮が認められない事例、または器質的な脳損傷が認められない事例(CT・MRIが取り付けられなかった事例を含む。)
- 被害者が幼児・児童である事例
- 交通事故受傷と高次脳機能障害との間の相当因果関係に疑義のある事例
- 消滅時効が問題となる事例
異議申立事案
地区本部審査会の審査結果に対する異議申立事案についても、地区本部審査会から本部審査会へ移送が行われ、本部審査会にて後遺障害等級認定の審査が行われることになっています。
高次脳機能障害の等級別の認定基準解説
画像所見があれば後遺障害等級12級13号は認定される
交通事故外傷による脳損傷の画像所見さえあれば、たとえ被害者が無症状であったとしても、後遺障害等級12級13号の認定を受けることができます。
後遺障害等級12級13号を超える等級としては、別表一1級1号、別表一2級1号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号の6種類がありますが、これは高次脳機能障害による支障の程度によって等級付けがなされています。
以下では、後遺障害等級別に、それぞれ別表一1級1号、別表一2級1号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号に該当する事例というのがどのような場合であるのかについて説明していきます。
後遺障害等級別表一1級1号
1級1号の後遺障害等級認定基準
「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級別表一1級1号認定基準
「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身の回りの処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級別表一1級1号の基本的な考え方
身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回りの動作に全面的介護を要するもの。
高次脳機能障害の後遺障害等級別表一1級1号の具体例
認知障害の具体例
- 記憶(記銘や想起)や見当識が失われており、指示に従わず、また、理解力や判断力も全くない。
- 介護者と有効な接触が取れない。また、意志伝達ができないか非常に困難。
人格変化の具体例
- 人格変化が顕著で、極端な無為・無関心、ねたきり状態、または、家族以外の他人に対しても暴力などの他害行為が止まらない。
日常生活の具体例
- 日常生活(食事、排泄、更衣、入浴等)は身体介助なしに行えず、常に尿便失禁状態である。
小杉法律事務所における解決事例
後遺障害等級別表一2級1号
2級1号の後遺障害等級認定基準
「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級別表一2級1号認定基準
「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身の回りの処理の動作について、随時介護を要するもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級別表一2級1号の基本的な考え方
著しい判断力の低下や情緒の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの。
高次脳機能障害の後遺障害等級別表一2級1号の具体例
認知障害の具体例
- 記憶(記銘や想起)は強く障害され、数分前のことも忘れる健忘状態。
- 会話や表現はいくらかできるが、家族以外の他人との意志伝達が困難。
人格変化の具体例
- 人格変化が著明で、感情易変、興奮、暴言・暴力、意欲低下など行動面の障害が目立つ。
- 幻覚や妄想などにもとづく問題行動が続いている。
日常生活の具体例
- 日常生活(食事、更衣、入浴等)は(ADL可能な範囲で)できても、見守り、声掛け、誘導、ときには介助が必要。
- 介助があれば排泄ができるが、間に合わないと尿便失禁することもある。
- 独り外出は困難あるいは危険で、付添いを要する。
- (施設に入所していること自体は後遺障害等級認定の根拠にしない。)
小杉法律事務所における解決事例
後遺障害等級3級3号
3級3号の後遺障害等級認定基準
「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級3級3号認定基準
「生命維持に必要な身の回りの処理の動作は可能であるが高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級3級3号の基本的な考え方
自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし、記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの。
高次脳機能障害の後遺障害等級3級3号の具体例
認知障害の具体例
- 記憶(記銘や想起)は断片的で健忘傾向があり、新しいことを学習できない。
- 簡単な情報処理はできるが理解力、判断力、問題解決能力の低下が著しい。
- 時間及び地理的見当識が障害されている。
- 現実把握能力が低下し、自己洞察・病識に欠けている。
人格変化の具体例
- 感情易変、興奮、暴言、ときに暴力、意欲低下など行動面の障害がある。
- 他人に対し大声・暴言などや馴れ馴れしい言動を示すことが多い。
- 幻覚や妄動などに影響された問題行動がみられる。
日常生活の具体例
- 日常生活(食事、排泄、更衣、入浴等)は(ADL可能な範囲で)ほぼ自立し、近所に外出できる。
- 看視・声掛けのもとに簡単な家事などの作業ができるが、こだわりもあって安定しない。
社会生活の具体例
- 一般就労は試みても長続きせず、福祉作業所などでの福祉的就労にとどまる。
- (現実就労状況のみに拠らず、本人の就労能力を洞察すること。一般就労していても名目的で、実際は就労不能のこともある(後遺障害等級3級3号)。また、逆に、就労能力があっても様々な理由で就労していないこともある(後遺障害等級5級以下)。)
後遺障害等級5級2号
5級2号の後遺障害等級認定基準
「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級5級2号認定基準
「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級5級2号の基本的な考え方
単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし、新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの。
高次脳機能障害の後遺障害等級5級2号の具体例
認知障害の具体例
- 以前のことは比較的覚えているが、最近の出来事がなかなか覚えられず、新しいことの学習が困難。
- 理解力、持続力、集中力、問題解決能力が低下していて、環境変化に対応できない。
- 時間に関する見当識が障害されている。
- 金銭感覚にルーズであり、ごまかしたり、不適切・不用な買い物をすることがある。
人格変化の具体例
- 他人との対応で場にそぐわない不適切な言動を示すことがある。
- 気分のムラ、易怒、自発性低下、必要以上のこだわりなどの人格変化が認められる。
日常生活の具体例
- 助言と看視のもとに一般就労を維持できるが、中断(離職)もあり得る(※短時間で頻回の中断があれば就労不能とみる)。
社会生活の具体例
- 声掛けやメモ等があれば簡単な家事等の作業を遂行できる。
後遺障害等級7級4号
7級4号の後遺障害等級認定基準
「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級7級4号認定基準
「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級7級4号の基本的な考え方
一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの。
一般人の半分程度の能力が目安といえる。
高次脳機能障害の後遺障害等級7級4号の具体例
日常生活の具体例
- 記憶力、持続力、集中力、問題解決能力の低下がある。
人格変化の具体例
- 怒りっぽい、馴れ馴れしいなど、軽度の人格変化がある。
日常生活の具体例
- 複雑な家事や買い物も指示すればこなすが、手順が悪くミスもある。
社会生活の具体例
- 社会活動や作業は一応できるが受動的で、同時に複数の仕事はこなせない。
小杉法律事務所における解決事例
後遺障害等級9級10号
9級10号の後遺障害等級認定基準
「神経系統の機能又は精神に障害を残し、労務に服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級9級10号認定基準
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級9級10号の基本的な考え方
一般就労を維持できるが、作業効率や作業持続力などに問題があるもの。
高次脳機能障害の後遺障害等級9級10号の具体例
認知障害の具体例
- 年齢相当以上に物忘れがある。
- 集中力、問題解決能力などが以前に比べて多少低下している。
日常生活の具体例
- 家事(掃除・洗濯・献立など)や買い物が一応こなせる。
社会生活の具体例
- 能力は多少落ちても元の仕事・作業が続けられる。
裁判による高次脳機能障害の後遺障害等級獲得
ここまで述べてきた高次脳機能障害の後遺障害等級の解説は、主に自賠責保険の認定基準によるものです。
自賠責保険というのは、日々大量に発生する交通事故被害について、迅速な判断を下さなくてはならない立場にありますから、画像所見を重視しすぎるきらいがあります。
従いまして、いかに高次脳機能障害の特有の症状が生じていたとしても、画像所見で明確に脳損傷が確認できなければ、高次脳機能障害として後遺障害等級認定がなされることはありません。
これは、冒頭申し上げたアメリカをはじめとした医学界の見解とは異なるものですので、本来は、画像所見のみならず、各種検査項目を組み合わせて高次脳機能障害であるか否かの判定がなされなければいけません。
また、交通事故による高次脳機能障害の後遺症であると自賠責保険に認められたとしても、その後遺障害等級認定が正しいとは限りません。
小杉法律事務所では、高次脳機能障害の後遺障害等級について、自賠責保険の認定よりも、裁判で高い等級を勝ち取った事例が複数あります。
自賠責保険の後遺障害等級認定に納得がいかないという方は、後遺症被害専門の弁護士に相談しましょう。
高次脳機能障害での後遺障害等級認定を受けるために必要な資料
画像検査所見
自賠責保険における高次脳機能障害の後遺障害等級認定では、MRIやCT画像によって、脳の器質的病変に基づくものであることが医学的に裏付けられる必要があります。
頭部を受傷した事例では、緊急搬送先の病院や、最初の転院先の病院にて、MRI画像撮影やCT画像撮影が行われることが多いですが、交通事故当時の画像だけでは足りません。
経時的なMRI撮影やCT撮影によって、脳萎縮の程度等を確認する必要があります。
また、交通事故受傷直後には画像所見に検出されない高次脳機能障害もありますが、このような事例ですと、その後もMRI撮影やCT撮影を続けることによって、脳室拡大の他覚所見を獲得できる事例もあり、これにより高次脳機能障害での後遺障害等級認定を受けられることがあります。
いずれにしましても、受傷直後から症状固定に至るまでの間、定期的にMRI画像撮影やCT画像撮影を続けることが重要です。
神経心理学検査所見
高次脳機能には、知能、記憶力など様々なものがありますが、障害が疑われる機能によって、実施すべき検査が異なります。
知能の検査が必要な場合には、知能テストであるWAIS-R、長谷川式簡易痴呆スケールがよく用いられており、記憶力の検査が必要な場合には、記憶検査であるWMS-R、三宅式記銘検査などがよく用いられます。
こうした検査は、脳神経外科などの専門医によってなされますので、高次脳機能障害の疑いのある被害者の方については、専門の医師による神経心理学検査を実施するようにしてください。
後遺障害等級申請に必要な資料
自賠責保険に後遺障害等級申請を行うには、経過診断書・診療報酬明細書・後遺障害診断書といった必須資料があります。
中でも、後遺障害等級認定では、後遺障害診断書の記載内容が最も重視されます。
ただし、高次脳機能障害においては、この後遺障害診断書のみから後遺障害等級認定が行われることはなく、高次脳機能障害特有の他の書式の重要度も高いです。
神経系統の障害に関する医学的意見
高次脳機能障害の後遺障害等級認定において最も重要な証拠の1つといえるのが、この「神経系統の障害に関する医学的意見」です。
これは脳神経外科医やリハビリ科など高次脳機能障害の治療に関する主治医に記載してもらうものですが、下記8パートに分かれています。
1.画像(脳MRI・脳CTなど)及び脳波
ここでは、脳MRI・脳CT・脳波検査などの検査名と、その検査日が記され、また、特筆すべき所見が記されることになっています。
ここで記載される所見が、後遺障害等級12級13号以上の等級認定がなされるか否かの分水嶺となります。
2.神経心理学的検査
ここでは、知能、記憶、情報処理能力、遂行機能、言語などの検査日とその所見が記されることになっています。
具体的には、WAIS-R、長谷川式簡易痴呆スケール、WMS-R、三宅式記銘検査などの検査結果などが記されます。
3.運動機能
ここでは、左右の上下肢の機能や体幹機能と、筋力(MMT)についての記入がなされることになっています。
なお、MMT(徒手筋力検査)のランク付けは5~0で評価され、5(Normal)「問題なし」から始まり、0(Zero)「なにをやっても筋の収縮が確認できない」までの6段階評価となっています。
左右の上肢の機能障害
主治医が、①正常、②手指巧緻性低下、③補助手、④廃用のいずれかに〇を付けることになっています。
左右の上肢の筋力
主治医が、①肩屈曲、②肩外転、③肘屈曲、④肘伸展、⑤手屈曲、⑥手伸展という6つの動きについて、徒手筋力検査を行い、それぞれに5~0の6段階評価点を付けることになっています。
左右の下肢の機能障害
主治医が、①正常、②耐久力低下/つまずきやすい、③片足立ち困難/下肢装具使用、④廃用のいずれかに〇を付けることになっています。
左右の下肢の筋力
主治医が、①股屈曲、②股伸展、③膝屈曲、④膝伸展、⑤足屈曲、⑥足伸展という6つの動きについて、徒手筋力検査を行い、それぞれに5~0の6段階評価点を付けることになっています。
体幹の機能障害
主治医が、①正常、②軽度バランス障害、③バランス悪く長く立っていられない、④座っていられないのいずれかに〇を付けることになっています。
4.身の回り動作能力
①食事動作、②更衣動作、③排尿・排尿動作、④排便・排便動作、⑤入浴動作、⑥屋内歩行、⑦屋外歩行、⑧階段昇降、⑨車いす操作、⑩公共交通機関利用について、1.自立・2.ときどき介助
3.大部分介助・4.全面介助の4ランクに分けて〇が付けられることになっています。
5.てんかん発作の有無
てんかん発作の無/有が記入されます。
てんかん発作有りに〇が付けられた場合には、治療のために使用している抗てんかん薬の種類と量、てんかん発作の程度と頻度、多く見られる発作の型についての記入がなされます。
なお、1か月に2回以上の発作がある場合には、通常硬度の高次脳機能障害を伴っているので、脳の高次脳機能障害に関する後遺障害等級3級以上の等級認定がなされることになります。
6.認知・情緒・行動障害
以下の1~21の症状について、1~4のランク付けがなされます。
- 以前に覚えていたことを思い出せない
- 新しいことを思い出せない
- 疲れやすく、すぐ居眠りをする
- 自発性低下、声かけが必要
- 気が散りやすく、飽きっぽい
- 発想が幼児的、自己中心的
- 話がまわりくどく、考えを相手に伝えられない
- 周囲の人との意思疎通を上手に行えない
- 複数の作業を同時に行えない
- 行動を計画したり、正確に遂行することができない
- 粘着性、しつこい、こだわる
- 感情の変動がはげしく、気分が変わりやすい
- 感情や言動をコントロールできない
- ちょっとしたことですぐ怒る
- 暴言・暴力
- 性的な異常行動・性的羞恥心の欠如
- ふさぎこむ・気分が落ち込む
- 特に理由もなく不安を感じている
- 夜、寝つけない、眠れない
- 幻覚や妄想がある
- 受傷前と違っていることを自分で認めない
7.上記6の症状が社会生活・日常生活に与える影響の具体的摘示
上記1~21の症状が、社会生活や日常生活にどのような支障を与えているかを、主治医が具体的に記載をします。
8.全般的活動および適応状況
家庭、地域社会、職場、学校などでの、全般的活動状況ならびに適応状況について、主治医の観点から具体的に記載をします。
日常生活状況報告
神経系統の障害に関する医学的意見と並び、高次脳機能障害の後遺障害等級認定において最も重要な証拠の1つといえるのが、この「日常生活報告」です。
神経系統の障害に関する医学的意見は主治医が記載するものですが、この日常生活報告は、家族・近親者・介護の方が記載するものです。
主治医というのは交通事故外傷の後に当該高次脳機能障害の患者と関わりを持ちますが、家族や近親者の場合、交通事故の前の被害者の状態を知っているため、事例によっては、医師の見解よりも、この日常生活報告の方が重視されることがあります。
日常生活報告は、下記8パートに分かれています。
1.日常活動
起床・意志伝達・食事・掃除・交通・買い物・金銭管理・服薬・予定管理・対人関係などの25の質問(学生の場合は30の質問)について、交通事故受傷前と受傷後の評価をそれぞれ行っていきます。
評価方法は6種類あり、下記のとおりとなっています。
0:問題がない。
1:多少問題はあるがあらかじめ準備をしておいたり、環境を整えておけば一人で安定して行える。
2:確実に行うためには、周囲からの確認や声かけが必要。(確認・声かけが何回かに1回で済むのであれば「1」の評価とする)
3:周囲の人が、行動を共にしたり、具体的なやり方を示すなど、言葉以外の直接的な手助けが必要。
4:準備、声かけ、手助けなどを行っても、指示を守れなかったりするために、周囲の人が後始末をしなければならない場合。
N(当てはまらない):年齢や生活環境が異なるために、質問の内容が不適当で回答できない場合(同居していないなどのため)情報不足の場合。
2.問題行動
甘え・怒り・不適切発現・暴力・注意されるまでやめない・人のせいにする・強いこだわり・思い込み・落ち着かない・脅迫盗みなどの10項目の問題行動について、交通事故受傷前と受傷後の評価をそれぞれ行っていきます。
評価方法は6段階あり、下記の内容の問題行動頻度を記入することになっています。
0:ない
1:稀にある
2:およそ月に1回以上ある
3:およそ週に1回以上ある
4:ほぼ毎日ある
N(当てはまらない)
3.日常の活動および適応状況
下記1~10のいずれかに〇を付けることになっています。
- 家庭、地域社会、職場、または学校などの広い領域において、問題なく良く活動・適応している。
- 家庭、地域社会、職場、または学校で、効率良く順調に活動・適応している。
- 家庭、地域社会、職場、または学校における行動や人間関係に、ごくわずかな障害がある。
- 家庭、地域社会、職場、または学校でいくらかの困難がある。しかし全般的には良好にふるまっていて有意義な対人関係もかなりある。
- 家庭、地域社会、職場、または学校で、中等度の困難がある。(例:友達が少ししかいない。友人あるいは職場の同僚とトラブルを起こすことがある。)
- 家庭、地域社会、職場、または学校で、深刻な障害がある。(例:友達がいない。仕事が続かない。)
- 家庭、地域社会、職場、または学校で、重大な障害がある。(例:友達を避け、家族を無視し、仕事ができない。子供の場合、しばしば乱暴をし、家庭では家族に反抗し、学業は同級生についてゆけない。)
- 家庭、地域社会、職場、または学校で、役割を果たしたり、人と関わることができない。(例:家屋内あるいは自室に引きこもり。仕事も家庭も友人関係も維持できない。)
- 最低限の身辺の清潔や健康維持もできない部分がある。一人ではほとんど生活を維持できない。
- 最低限の身辺の清潔および健康維持を持続的に行うことができない。
4.具体的エピソード
上記1~3の症状状態が、社会生活・日常生活にどのような影響を与えているか、交通事故前後の生活状況の変化、現在支障が生じていることなどを具体的に記入していきます。
また、記入欄にエピソードが書ききれないといった場合には、別の用紙を添付して、そちらに具体的エピソードを書いてもよいとされています。
5.就労・就学状況
就労状況
まずは交通事故前の就労の有無、就労している場合は職業、就労していない場合はその理由について記載していきます。
次に現在の就労状況や具体的な仕事の状況、就労していない場合はその理由について記載していきます。
就学状況
現在の就学状況(普通学級・支援学級・養護学校)や就学状況、就学していない場合はその理由について記載します。
仕事や学校を辞めたor変えた場合の理由といきさつ
仕事や学校をやめた場合や、変えた場合には、その理由やいきさつについて記載をします。
6.身の回り動作能力
①食事動作、②更衣動作、③排尿・排尿動作、④排便・排便動作、⑤入浴動作、⑥屋内歩行、⑦屋外歩行、⑧階段昇降、⑨車いす操作、⑩公共交通機関利用について、1.自立・2.ときどき介助
3.大部分介助・4.全面介助の4ランクに分けて〇が付けられることになっています。
7.身の回り動作能力についての具体的エピソード
上記6の身の回り動作能力に基づき、声かけ・見守り・介護が必要な理由、それらの内容・頻度を具体的に記載することになっています。
また、介護保険の認定がある場合には、介護認定通知書等の添付が要求されています。
8.生活状況
交通事故の前後それぞれについて、独居・他の家族と同居・施設入所・医療機関入院・その他といった生活状況を記入することになっています。
頭部外傷後の意識障害についての所見
高次脳機能障害の後遺障害等級認定は画像所見が最重要視され、これにより後遺障害等級12級13号以上の等級認定がなされるかどうかが決まりますが、画像所見の次の考慮要素とされているのが、「意識障害についての所見」です。
この「頭部外傷後の意識障害についての所見」では、意識障害の有無や推移、レベル推移、期間、頭部外傷以外の影響、その他意識障害の所見について記されます。
その他医学的意見書
以上が高次脳機能障害の後遺障害等級認定における必要な資料となりますが、事例によっては、個別に医学的意見書を取り付けることがあります。
小杉法律事務所では、個別の医学的意見書を取り付けて高次脳機能障害の後遺障害等級認定を受けた事例が複数ございます。
・医学的意見書により異議申し立てで後遺障害等級別表一1級1号を獲得した事例
・医学的意見書により裁判で後遺障害等級別表一1級1号を獲得した事例
高次脳機能障害以外の後遺障害等級
高次脳機能障害の事例では他の後遺障害についても等級認定がなされることが多い
高次脳機能障害となってしまった事例というのは、脳損傷を来すような激しい交通事故被害に遭っているということですので、高次脳機能障害のみの後遺症が生じているということはあまりなく、他の後遺症についても発生していることが多いです。
高次脳機能障害は脳神経外科などの主治医によって後遺障害診断がされますが、その他にも、眼科・耳鼻咽喉科・口腔外科・歯科・整形外科・形成外科といった他の専門医にも後遺障害診断書を作成してもらわなければならない事例が多いです。
高次脳機能障害が最も重篤な後遺症となっていて、他の後遺症については後遺障害診断を忘れていたという事例も多く見られますので、注意が必要です。
眼の後遺障害
高次脳機能障害の事例では、交通事故によって頭を打っていますから、その際に眼の付近を受傷しているといったこともよくあります。
この場合、視力障害、調節機能障害、運動障害、視野障害、外傷性散瞳についても後遺障害等級認定の可能性があります。
また、眼の付近を受傷していなくても、脳の後頭葉を受傷するなどして、脳損傷由来の眼の後遺症が生じることもあります。
高次脳機能障害の被害者の方で、眼にも症状がある事例では、眼科での診察を忘れないようにしましょう。
耳・鼻の後遺障害
高次脳機能障害の事例では、交通事故によって頭を打っていますから、その際に耳や鼻を直接受傷しているといったこともあります。
この場合、聴力障害、耳鳴、平衡機能障害、嗅覚障害についても後遺障害等級認定の可能性があります。
また、耳や鼻の付近を受傷していなくても、脳の側頭葉を受傷するなどして、脳損傷由来の聴覚の後遺症が生じることもあります。
高次脳機能障害の被害者の方で、耳の障害や、耳鳴・めまい・嗅覚異常といった症状がある事例では、耳鼻咽喉科での診察を忘れないようにしましょう。
口・顎・歯の後遺障害
高次脳機能障害の事例では、交通事故によって頭を打っていますから、その際に顎や口付近を直接受傷しているといったこともあります。
この場合、そしゃく障害、言語障害、歯牙障害についても後遺障害等級認定の可能性があります。
また、口の付近を受傷していなくても、脳の側頭葉を受傷するなどして、脳損傷由来の言語障害・味覚障害の後遺症が生じることもあります。
高次脳機能障害の被害者の方で、そしゃく障害、言語障害、歯牙障害、味覚障害といった症状がある事例では、口腔外科や歯科での診察を忘れないようにしましょう。
醜状障害
高次脳機能障害の事例では、交通事故によって頭を打っていますから、頭や顔に傷痕が残ってしまっているということがよくあります。
交通事故による傷痕ではなく、手術痕も後遺障害等級の対象になります。
醜状障害は忘れられがちな後遺障害等級ですので注意が必要です。
なお、醜状障害の専門医は形成外科等になるでしょうが、醜状障害については脳神経外科など高次脳機能障害の後遺障害診断の際に一緒に書いてもらえることが多いです。
・後遺障害等級12級の認定から高次脳機能障害と醜状障害の異議申立てにより併合5級の認定を受けた解決事例はこちら
その他骨折などによる後遺障害等級
高次脳機能障害の事例では、交通事故によって脳を損傷するほどの傷害を受けていますので、腕や足など、頭部以外にも骨折被害等が生じていることが多いです。
骨折被害は事例によっては高次脳機能障害に匹敵するほどの後遺障害等級認定がなされますので、脳神経外科のみならず、整形外科での治療も受け、適切な後遺障害診断書を作成してもらうようにしましょう。
高次脳機能障害での後遺障害等級認定を受けると損害賠償金はどのように変わるか?
高次脳機能障害による後遺障害等級認定を受けると損害賠償金は大きく変わります
高次脳機能障害による後遺障害等級は別表一1級1号~9級10号までありますが、これらの後遺障害等級認定がなされると、損害賠償金の合計は数千万円を下ることはないといえます。
中には億単位の損害賠償金になることもあり、過去の裁判例上の判決認容額高額ランキングを見ても、その多くは高次脳機能障害による後遺障害事例となっています。
高次脳機能障害による後遺障害等級認定を受けると、その等級によって慰謝料額や逸失利益が増えるといった効果があるのですが、他にも「請求できる損害費目が増える」というメリットがあります。
ここでは、通常は認められづらいが、高次脳機能障害による後遺障害等級認定によって認められやすくなる損害費目について紹介していきます。
なお、後遺障害等級に応じた慰謝料額や逸失利益の労働能力喪失率など損害の詳細についてはこちらのページをご覧ください。
症状固定後の治療費や将来治療費
損害賠償請求における治療費というのは、症状固定までの期間のみ支払われるのが原則となっています。
交通事故被害によって負ってしまった怪我について、それを治すためにかかった治療費は加害者が負担するべきことは当然といえますが、症状固定と判断された後は「もうこれ以上治療を続けても症状が改善されない」と判断されたことになりますので、加害者の法的な意味での治療費の負担は症状固定時以降は生じないと考えられているのです。
治療によって完治したのでなければ、症状固定日以降も被害者は後遺症に悩まされることになりますが、この後遺症についての損害賠償請求は、後遺症慰謝料や後遺症逸失利益によって賠償がなされるべきで、症状固定後の治療費や将来治療費は認められないというのが原則になっています。
ところが、高次脳機能障害により後遺障害等級認定がなされた場合には、例外的に、症状固定後の治療費や将来治療費も支払ってもらえることがあります。
例えば、遷延性意識障害など後遺障害等級別表一1級1号に該当する後遺症の場合には、生命維持のために症状固定後の治療が必要となりますから、当然に症状固定後の治療費が認められます。
また、後遺障害別表一2級1号以下の後遺症の場合であっても、リハビリを続けなければ、症状が悪化してしまうといったことは多くありますので、症状固定後の治療費や将来治療費が認められることがあります。
ただし、任意保険会社の担当者の中には、「症状固定後の治療費は支払わないものである」という頭で考えている方もいらっしゃいますし、高次脳機能障害であれば、必ず症状固定後の治療費や将来治療費が支払われるというわけではありません。
医学的意見書による裏付けが必要とされる事例もありますので、症状固定後の治療費や将来治療費についてお悩みの方は、後遺症被害専門の弁護士に相談されることをおすすめします。
将来治療費の計算では、健康保険による自己負担分以外の請求もできますので、将来治療費のみで1000万円を超える損害賠償金になることがあります。
※高次脳機能障害で将来治療費が認められた解決事例はこちらのページをご覧ください
※小杉法律事務所における\無料相談/の流れについてはこちらのページをご覧ください
付添看護費用(入院付添費・通院付添費・自宅付添費・将来介護費用)
高次脳機能障害の被害に遭われてしまった場合というのは、入院時・通院時・自宅での生活時にご家族による付添いが必要となる事例が多いです。
こうした事例では、入院付添費・通院付添費・自宅付添費・将来介護費用といった損害費目を追加して請求していくことが可能です。
特に将来介護費用は、それだけで1億円近い損害賠償金になることがあるなど高額な損害費目の1つとされています。
※高次脳機能で付添看護費用が認められた解決事例はこちらのページをご覧ください
将来雑費
高次脳機能障害となると、排泄関係でおむつが必要となったり、食事の関係でとろみをつけるものが必要となったりなど雑費の支出を余儀なくされることがあります。
1つ1つは大きな出費ではなかったとしても、それが生涯続くとなると馬鹿にならない金額になってしまいます。
これらの雑費の出費については、平均余命までの期間を将来雑費として請求していくことができます。
将来雑費のみで2000万円を超えることもありますので、注意する必要があります。
装具・器具等購入費
高次脳機能障害となると、杖・車椅子・装具・ベッドなど様々な装具・器具の購入を余儀なくされることがあります。
これらは、一度購入すると一生使えるというわけではなく、何年かおきに買換えが必要となってきます。
そこで、装具・器具等購入費については、それぞれの耐用年数に応じて、平均余命までの期間の買換え分を請求していくことができます。
家屋改造費・自動車購入費・転居費用等
高次脳機能障害となると、交通事故前まで居住していた住居では暮らすことができず、手すりを付けたり、段差を解消したりするなどの家屋改造を余儀なくされる事例があります。
また、家屋改造ができない住居に済んでいた場合には、介護用の住居に転居したりすることもあります。
加えて、車いすのまま乗車できる車両など、自動車を購入したり改造したりする必要も出てきます。
この家屋改造費や自動車購入費については、他の家族の生活の便益になるなどの理由で、満額認定されることが少ないですが、小杉法律事務所では、介護状況の調査を詳細に行って家屋改造費を満額認定された解決事例が複数ございます。
後見費用等
重度の高次脳機能障害を負ってしまい、家庭裁判所による後見人の選任が必要となった事例では、成年後見開始の審判手続費用などを損害として請求していくことができます。
近親者慰謝料
慰謝料というのは被害者本人に発生するものですが、死亡事故では近親者慰謝料というのが認められています。
そして、高次脳機能障害の事例でも、死亡事故の場合にも比肩し得べき精神上の苦痛を受けたときは、民法第709条,710条に基づいて、ご家族自身が近親者慰謝料を請求できるとされています(最高裁判所昭和33年8月5日判決 最高裁判所民事判例集第12巻12号1901頁)。
弁護士による高次脳機能障害の後遺障害等級認定解説まとめ
以上長々と高次脳機能障害の後遺障害等級について解説をしてきましたが、ここに書いてある事項でもまだまだ足りないくらい高次脳機能障害の後遺障害等級認定は複雑で難しいものです。
交通事故により高次脳機能障害に悩まれている方については、後遺症被害専門の弁護士に法律相談されることをおすすめします。
小杉法律事務所では無料で法律相談を実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
電話相談やzoomでのweb相談も可能です。
また、高次脳機能障害の方であれば、ご自宅・介護施設・入院中の病院などへ訪問相談をさせていただくことも可能です。
47都道府県、全国どこでも対応しております。