後遺障害等級の解説

脳の障害

高次脳機能障害

(1)説明

高次脳機能障害とは、脳に損傷を受けたことによって、認知、記憶、思考、注意の持続などの脳の高次脳機能と呼ばれる機能の障害を指します。

 

高次脳機能障害は、脊髄損傷と並ぶ中枢系の障害で、後遺障害等級も1級~9級に該当するとされています。

しかしながら、高次脳機能障害のなかには、一見してわかりにくい症状が発現していることもあり、本人自体が気づいていないケースもあります。また、自賠責の等級認定制度も専門部会の精査を経るなど、非常に厳格になっています。何より、必要な検査や書類が多岐にわたることが多いので、計画的かつ綿密な検討を要する障害です。

 

(2)認定基準

自賠責の認定基準上、高次脳機能障害においては、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力及び社会的行動能力の4つの能力の各々の喪失の程度に着目して、評価を行うこととされています。

1級

身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの

2級

著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、一人で外出することが出来ず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことが出来ても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことが出来ないもの

3級

自宅周辺を一人で外出出来るなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全く出来ないか、困難なもの

5級

単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習出来なかったり、環境が変わると作業を継続出来なくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことが出来ないもの

7級

一般就労を維持出来るが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことが出来ないもの

9級

一般就労を維持出来るが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの

 

これらのいずれに該当するかを、後遺障害診断書のみならず、神経系統の障害に関する医学的意見、日常生活状況報告といった書類で立証していく必要があります。

 

  • 具体的基準

高次脳機能障害の形式的な後遺障害等級認定基準は(2)のとおりですが、自賠責では、そもそも「事故による高次脳機能障害」か否かが、問題とされるケースがほとんどです。特に、ご高齢の方や、認知症の既往歴があるかたのケースは、下記の認定基準を厳密に検討する必要があります。

  • 初診時に頭部外傷など脳損傷の診断があったこと
  • 頭部外傷後に重い意識障害が6時間以上あったか、軽い意識障害が1週間以上継続したこと
  • 診断書に、高次脳機能障害、脳挫傷、びまん性軸索損傷等の記載があること
  • 診断書に、高次脳機能障害を示す典型的な症状の記載があり、知能検査、記憶検査等の神経心理学的検査で異常があること
  • 頭部画像上、初診時の脳外傷が認められ、少なくとも3ヶ月以内に脳質拡大・脳萎縮が確認されたこと

 

しかしながら、意識障害や画像上の明白な異常がない場合でも、脳が損傷を受けていると考えられる場合は多いのが高次脳機能障害の特徴の一つです。このような場合には、自賠責での認定は受けられないこともあり、裁判を見据えた立証活動が肝要です。

  • 高次脳機能障害認定の注意点

高次脳機能障害の認定を受けるためには、

・専門の病院を受診する

特に、神経心理学、リハビリテーションにも精通した専門の病院で診断を受ける必要があります。

・適時に画像を撮影する

高次脳機能障害の立証には、事故当時の脳のCT画像だけでは足りません。経時的なMRI撮影やCT撮影により、脳委縮の程度などを確認する必要があります。

受傷直後には画像所見が顕出されない高次脳機能障害もあり、脳室拡大などの所見を獲得する必要があるケースもあります。

・神経心理学検査を行う

高次脳機能には、知能、記憶力など様々なものがありますが、障害が疑われる機能によって、実施すべき検査が異なります。知能の検査が必要な場合には、知能テストであるWAIS-R、長谷川式簡易痴呆スケールがよく用いられており、記憶力の検査が必要な場合には、記憶検査であるWMS-R、三宅式記銘検査などがよく用いられます。

など、種々の検査が必要です。

 

  • 高次脳機能障害の特徴

高次脳機能障害は、①以前に覚えていたことを思い出せない、②新しいことを覚えられない、③疲れやすくなり、すぐに居眠りするようになった、④気が散りやすく、飽きっぽくなった、⑤話が回りくどくなった、⑥複数のことを並行してできなくなった、⑦怒りっぽくなったなどの症状が特徴的な症状とされています。

交通事故などで頭部を外傷した後、これらの症状が疑われる場合には、先ずは病院に通い、適時の検査やリハビリに不安がある場合には、専門家に相談しましょう。

この記事の執筆者

小杉 晴洋
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災などの損害賠償請求解決件数1000件超。

経歴
小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身・福岡市在住。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(当時。現「神奈川県弁護士会」)に登録後(損害賠償研究会所属)、福岡県弁護士会に登録換え(交通事故委員会所属)。